【コラム】ちょっと待って、その解雇!! 〜まずは“話し合いでの解決”を目指しましょう〜

前回のコラムでは、根拠や手順が曖昧で安易な解雇は労使トラブルに発展する可能性が高く、会社にとって『百害あって一理なし』であることをお伝えしました。

【コラム】ちょっと待って、その解雇!! 〜根拠と手順が重要です〜

「やめて欲しい社員がいる」「解雇したい」というご相談はよくあります。時には「やめてもらいました」という事後報告も…😱 そんな時は、何があったのかをお話しいただきな…

「そうは言っても、やはりこのまま働き続けてもらうのは難しい」「やめてもらうのが一番良い解決方法だ」という場合には、解雇ではなく話し合いによる合意退職を目指す方法(退職勧奨といいます)をおすすめします。

◆退職勧奨とは

一言でいうならば、対象社員に「これ以上我が社であなたを雇い続けることは難しい。やめてはどうか?(やめてもらえないか?)」と提案し説得することです。

退職勧奨の場合でも解雇と同様に、「合理的な理由」「問題行為に対する注意・指導の実績」「懲戒処分の実績」「何度も注意・指導されているにもかかわらず改善が見られないこと」など、根拠があってそれなりに手順を踏んでいることが必要です。

解雇との違いは、提案(お願い)ベースであるため、退職するかどうかを決めるのは会社ではなく、本人である点です。
ですから、退職を強要することはできず拒否されることもあり得ます。
また、退職勧奨を受け入れて社員が「退職します」と言った場合でも、離職理由は自己都合ではなく『会社都合』です。

*メリット ⇒ 話し合いをすることで理解を得やすく、合意のうえでの退職になりますので、後になってもめるケースは少ないです。
*デメリット ⇒ 必ずしも合意できるとは限らず、退職までに時間がかかる、または退職しない可能性があります。

退職勧奨にはデメリットもそれなりにありますが、解雇より穏便で会社にとってはるかにリスクの小さな方法です。

◆退職勧奨の進め方

それでは、「穏便に話し合いを進め円満な退職に至る」ための3つのポイントを解説します。

《ポイント1》何がいけなかったのか、どうして雇用の継続が難しいのかを丁寧に説明する

つい感情が入ってしまいそうになりますが、起こった事のみをもとに話し合います。

いままでの注意・指導の記録のほかに、事業主が把握している問題点や周りの社員に聞き取り調査した結果をあらかじめ整理したメモをもとに、「会社としては何度もチャンスを与えて指導してきたにもかかわらず、問題点が改善されなかったこと」「雇用を守るために会社としてできる限りの配慮をしたにもかかわらず、会社が求める能力の基準に達していないこと」について具体的に伝えます

この時、対象労働者の人格を傷つけたり否定するような発言は絶対にしてはいけません。
いかなる時もハラスメント行為は許されるものではありませんので、十分に注意してください。

そもそも労働者には「会社の指揮命令に従い、労務を誠実に提供する義務」があります。
退職勧奨をするのは上司や事業主の個人的な感情からではなく、誠実な労務の提供がなされないことによる職場へのマイナスの影響をこれ以上見過ごすことはできない、という判断からだということを理解してもらいましょう。

《ポイント2》絶対に退職を強要しない

いかに冷静に話し合いに臨むかが大切です。

会社側は準備して話し合いに臨みますが、対象社員にとってはほとんどの場合が不意打ちです。
感情的になってしまたり、まったく聞く耳を持ってくれない場合もあるでしょう。

話し合いを重ねても合意退職に至らないと、何かしらのペナルティを与えようとする事業主がたまにいらっしゃいますが、退職勧奨を受け入れないことは懲戒の理由にはなりません。

先にもお伝えしたとおり、退職勧奨は会社からの提案・説得で、勧奨を受け入れるかどうかを決めるのは対象社員本人です。
「何がなんでも受け入れさせる」「受け入れなかったら解雇」というスタンスでの話し合いは退職の強要と見なされる可能性が高く、NGです。

退職勧奨判例
厚労省パンフレット『適切な労務管理のポイント』より

退職勧奨では解雇予告手当のような金銭の支払いは必要ありません。
ですが、職を失うことによる不安から退職を決断できないと思われるケースでは「退職によって消滅してしまう年次有給休暇の買取 + 1〜2か月程度の生活資金を支給する」ことを検討してみてください。退職の合意を得やすくなります。

《ポイント3》退職届の提出、合意書の作成を忘れない

話し合いがまとまり、対象社員から「退職に応じます」との承諾を得たら、速やかに退職届を提出してもらいましょう。

退職届は本人の意思による退職であることの証となります。
また、退職届を提出することで社員自身にも自分の意思での退職であることを認識してもらえます。

退職にあたり金銭を支給するなど、話し合いの中で何かしらの条件の提示があった場合は特に、退職勧奨に関する合意書を作成しておきましょう。

話し合いの内容をSNS等を含む第三者に言いふらさないこと、退職後は一切の請求をしないこと、なども盛り込むと良いでしょう。

口頭での約束のみでは危険です。
お互いの認識のずれから言った言わないのトラブルに発展してしまってはせっかくの合意が台無しです。
必ず書面を交わしておきましょう。

◆まとめ

事業主から「やめてもらいたい社員がいる」という相談を受けた際に、対象社員と話し合ったのかを確認すると、「話していない」「今更話したくない」という回答が返ってくるケースが多いです。

「では、まずは対象社員と冷静に話し合ってみてください」とお伝えすると、退職勧奨で解決し解雇にまで至らないことがほとんどです。

労使トラブルは“話し合いによる解決”が原則です。

解決

「あなたに言われたくない!」と社員から言われてしまわないためにも、会社は普段から労働法令を遵守して信頼される存在であってください。

解雇した社員から、解雇無効の訴えと共に未払い残業代を請求されることは珍しいことではありません💦
退職勧奨にも同じようなことは起こり得ます。

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全国社会保険労務士会連合会『社労士診断認証制度 特設ページ』
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