【コラム】社員が新型コロナの“濃厚接触者”になってしまったら
新型コロナウイルス感染症はなかな収束しませんね。感染者数がまた増え始めているようです。
今まで新型コロナ感染症の影響を受けていなかった会社からも、このような問い合わせが増えてきました。
◉社員の身近な人がコロナ陽性となり、社員自身は濃厚接触者になりました。どうしたらよいですか?
◉社員のお子さんが濃厚接触者として自宅待機になりました。社員に休業手当は必要ですか?
◉発症したお子さんの看病をしていた社員がその後感染してしまいました。どのような手続きが必要ですか?
◉濃厚接触者の休業に対する助成金はありますか?
社員さんが濃厚接触者となる可能性は、以前にも増して高くなっています。
どのような判断をして手続きを進めていけば良いのか、あらためて確認しておきましょう。
なお、健康保険に加入している社員さんが感染または陽性判定のため休業した場合は『傷病手当金』の対象となります。
要件など詳しくはこちらのコラムをご覧ください。
◆休業手当は必要?
社員の健康と生活を守り、今後も安心して働いてもらうことができるよう、濃厚接触者に『会社都合の休業を命じて休業手当を支払う』または『特別な有給休暇を付与する』ことを検討される会社が多い印象です。
ご存知のとおり、濃厚接触者に該当すると保健所より健康観察と自宅待機を要請されます。
保健所の要請による自宅待機は感染拡大防止のためであり、会社都合による休業(=使用者の責に帰すべき事由による休業)とは言えないと考えられています。
それなら休業手当は無しで良いのでは? となりそうですが、話はそれほど単純でもないのです。
保健所からの自宅待機の要請はあくまでもお願いであり、強制力はありません。そして、休業の要請でもありません。
そのため、自宅待機中の社員が就労可能な状態であれば、会社は休業を回避するために最善の努力を尽くさなくてはなりません。
会社がこの努力義務を果たさずに社員を休業させた場合、使用者の責に帰すべき事由による休業とみなされて休業手当を支払う必要がある、とされています。
《ポイント》
✳︎濃厚接触者の自宅待機期間
自宅勤務等の方法で就労が可能であれば就労してもらい、通常の賃金を支払ってください。
『ありとあらゆる手を尽くしても就業させることが出来ない』という場合以外は、休業手当を支払う必要があります。
✳︎濃厚接触者の濃厚接触者
通勤に制限はないため、本来、休業させる必要はありません。『念のために』休業してもらう場合には、休業手当が必要です。
本人が自主的に休業を申し出た場合は通常の欠勤となり、休業手当の必要はありません。
◆休業か?年次有給休暇か?
他の社員への感染予防のためや取引先からの要請など止むを得ず濃厚接触者に休業を命じた場合でも、その休業は会社都合となり休業手当の支払いが必要です。
ただし、社員が希望した場合は、年次有給休暇を取得させることができます。
【年次有給休暇の場合】
休業手当の支払いは必要なく、通常の年次有給休暇を取得した時と同様に賃金を支払います。
会社が一方的に休業日を年次有給休暇とすることはできません。
【休業の場合】
休業手当として支払うべき額は、労働基準法26条に定められた休業手当(平均賃金の100分の60)以上であれば良いとされているので、金額の算定方法は会社によってまちまちです。
『通常の賃金100%』でも良いですし、『通常の賃金の80%』のように支給率を変えることも可能です。また、通常の賃金で算定することが難しい場合は平均賃金を使う場合もあります。
【参考】滋賀労働局リーフレット(平均賃金を使った休業手当の計算方法)
《ポイント》
✳︎就業規則や賃金規程のある会社は、まず、自社の休業手当の算定方法を確認しましょう。
民法536条2項に基づいて賃金(100%分)の支払い義務があるとの解釈もあります。
民法上の使用者の責に帰すべき事由による休業にあたるのかどうかは個別に判断されるため、休業を決めた時点ではなんとも言えないのが実情です。
可能であれば通常の賃金相当額を支払うことをおすすめします。
休業手当額を算出した結果、年次有給休暇を取得した時の賃金より少ない場合もあり得ます。
特に社員の年次有給休暇があまり消化されていない場合などには、良かれと思い、年次有給休暇を当てたくなることもあるかと思いますが、会社が一方的に休業日を年次有給休暇に振り替えることはできません。
年次有給休暇は労働者に与えられた権利であり本人が自ら申し出て取得するものですので、この場合、休業か年次有給休暇を取得するかは社員が決めることになります。
《ポイント》
本来、年次有給休暇は『労働義務を免除するもので、労働義務のない日に取得することはできない』ものであるため、社員からの年次有給休暇の申し出が休業の確定より先だった場合を除き、会社は社員が休業日に年次有給休暇を取得することを拒むことができます。
ただし、『事後に年次有給休暇への振り替えを会社が認めることは差し支えない』とされています。
◆特別な有給休暇とは?
会社都合の休業ではないため本来は欠勤にすべきところ、特別に年次有給休暇とは別の有給休暇を付与することです。
法定ではなく会社独自の制度になるため、導入するか否かは会社の判断になります。
導入する場合は特別休暇制度として就業規則に規定しておくことが望ましいのですが、コロナ禍の特例として就業規則には規定せず個別に対応するケースも多いようです。
個別の対応とはいえ、同じ状況にある社員には同じように特別な有給休暇を付与する必要があります。
対象者や付与日数の上限など一定の基準を設けておくことは有効です。
社員によって付与したりしなかったりと対応が変わることは望ましくありませんので、ご注意ください。
《特別な有給休暇の付与の例》
◉小学校休業等対応助成金の対象となる場合
◉社員本人は陰性が確認され自宅待機が解除されたものの、家族がまだ療養中で看護が必要なため休まざるを得ない場合(下図参照 母の8日目以降)
◆雇用調整助成金
対象期間が令和4年9月30日まで延長されています。
マニュアル等が充実していますので、申請を自社で行うことは可能です。
《ポイント》
✳︎雇用保険に加入している従業員を休業させた場合は雇用調整助成金の対象です。
✳︎雇用保険に加入していない従業員(学生アルバイト・短時間パートなど)を休業させた場合は、緊急雇用安定助成金の対象となります。
マニュアルは小規模事業主用しかありませんが、別の様式で全事業所申請が可能です。(支給申請の様式は厚労省のHPにあります)
支給申請のマニュアルや説明動画が厚労省のHPで公開されていますので、それらを参考にしてください。
◉緑
全事業所向け(事業所の規模を問わず) 雇用保険に加入している従業員の休業が対象。
◉黄←手続きが簡素化されていておすすめ!
小規模事業所向け(従業員数がおおむね20人以下) 雇用保険に加入している従業員の休業が対象
◉赤←手続きが簡素化されていておすすめ!
小規模事業所向け(従業員数がおおむね20人以下) 雇用保険に加入していない従業員の休業が対象
《ご注意ください!!》
✳︎『休業手当の支払い=助成金受給可能』というわけではありません。
✳︎休業手当支給の他にもさまざまな要件がありますので、必ず厚労省のHPで最新情報を確認してください。
✳︎わからないことは各都道府県の労働局やハローワークに問い合わせて、支給申請をしてください。
◆小学校休業等対応助成金
こちらも対象期間が令和4年9月30日まで延長されています。
手引きやコールセンターが用意されているので、自社での申請は十分可能です。
《ポイント》
✳︎この助成金は、要件に当てはまる子どもの世話を保護者として行うことが必要となった社員に『1.特別な有給休暇を付与し』『2.年次有給休暇の時と同じ賃金を支払った』事業主に対して支給されるものです。
✳︎コロナに感染した子どもを看病するために特別な有給休暇を取得していた社員が、その後続けて発症・陽性となった場合、子どもの休校中は特別な有給休暇を優先し、子どもが登校できるようになったら本人の傷病手当に切り替えることも可能です。
本来は、社員が発症・陽性判定を受けた時点で本人の都合による欠勤となり、原則無給(健康保険に加入していれば傷病手当金の対象)です。
とはいっても、ご家族の扶養の範囲以内で働いていらっしゃる方は傷病手当金はありませんので無給となりますし、傷病手当金の額よりも有給休暇の賃金の方が高額な場合が多いため、社員の利益を考えると特別な有給休暇をすぐに打ち切るべきか悩ましいところです。
役所に確認したところ、『本人が発症・陽性であっても子どもがコロナで学校等を休んでいる期間中に付与された特別な有給休暇は、助成金の対象です』とのことでした。
待機期間後に傷病手当に切り替え(または病欠により無給)か、助成金の活用を見越して有給休暇を継続するかは会社が判断することになります。
◆まとめ
社員が濃厚接触者となった時の休業の考え方と利用できる可能性のある助成金をご紹介しました。
濃厚接触者と一口に言ってもさまざまなパターンがありますし、特定の社員だけが美味しい思いをする事態は避けるべきですので、対応は本当に迷うところだと思います。
まだまだ厳しい状況が続きますが、会社としての方針を決める際に少しでも参考にしていただければ幸いです。
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