【コラム】最低賃金引き上げによる企業への影響と対策について
地域別最低賃金が改正され、10月1日から順次適用されています。
令和5年度の引き上げ額は43円、全国加重平均は1004円で過去最高となりました。
最低賃金が引き上げになると、どのような影響があるのでしょうか?
このタイミングで確認しておきましょう!
◆そもそも最低賃金とは
最低賃金法・労働基準法によって定められた、『使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額』のことです。
正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、会社に雇用されているすべての労働者が対象となります。
罰則付きの強制力のある法律ですので、使用者は必ず従わなければなりません。
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。
したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。
また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められ、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。
厚生労働省 最低賃金制度とは|厚生労働省 (mhlw.go.jp) より
また、意外と知られていませんが、使用者は
◉最低賃金の適用を受ける労働者の範囲およびこれらの労働者に係る最低賃金額
◉算入しない賃金
◉効力発生年月日
を常時作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法により、労働者に周知する義務があります。
自社で資料を用意するのは大変なので、ぜひ厚生労働省の『最低賃金特設サイト』にあるリーフレット(都道府県別広報ツール)を活用してください。
◆最低賃金の引き上げによる影響は?
1. 未払い賃金のリスク
時給者の場合は最低賃金額との比較が簡単にできますので、未払い賃金が発生することはほとんどありません。
気をつけたいのは、月給者・日給者の場合です。
よくある事例です。
◉確認を忘れていた、気づかなかった
◉固定残業代でカバーできる残業時間数が減ったことに気づかず、未払い残業が発生してしまった
◉最低賃金の対象とならない賃金を含んで算出してしまっていたため、結果的に最賃割れを起こしていた
給与額が最低賃金に満たない場合は未払い賃金となります。
前述のとおり、理由はどうあれ差額は必ず支払わなければなりません。
そうなると給与計算のやり直しや社会保険料や税金の修正など余計な事務作業が発生し、本来の業務に影響が出かねませんので事態は深刻です。
《対策》
◉まずはじめに、自社の給与が最低賃金を下回っていないかどうかをチェック!
◉最低賃金に満たない社員の給与を引き上げ
※時給換算額の算出方法・最低賃金以上かどうかの確認方法は、こちらの記事も参考にしてください。
【コラム】月給者・日給者の最賃割れにご注意! | スパイラルアップ社労士事務所 (spiralup.work)
2. 人件費の増加
令和5年度の最低賃金は、全国加重平均で前年度比41円増の1,002円に引き上げられ、引き上げ率は4.3%でした。
もともと最低賃金よりも高い賃金を設定している場合は大丈夫ですが、最低賃金ギリギリで従業員を雇っている場合は、人件費の増加が大きな負担となりそうです。
最低賃金引き上げにともなう昇給の結果、他の従業員との給与バランスがくずれてしまうことも考えられます。
その場合は、従業員のモチベーションを保つためにベースアップが必要となるかもしれません。
最低賃金の引き上げにともなう給与の底上げを機に従業員の意欲とスキル向上を図り、業績の向上に結びつけていくことが望ましいです。
また、基本給が上がると残業代も高くなります。この辺りも見過ごせないポイントです。
《対策》
◉業務効率化による生産性の向上、アウトソーシングの活用を検討する
◉労働時間を短縮する工夫をして、残業を抑制する
◉人件費以外の費用の見直し
◉働き方改革推進支援センター(https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/consultation/)無料相談窓口の活用
3. 労働時間を減らす従業員があらわれる
税法上や社会保険上の扶養内で働くことを希望する従業員は、時給の上昇により働く時間を減らさざるを得なくなります。
国は人手不足への当面の対応として、令和5年9月末に年収の壁・支援強化パッケージを公表しました。
その中で、130万円の壁対策として『収入が一時的に上がったとし ても、事業主がその旨を証明することで、 引き続き被扶養者認定が可能となる仕組みを作ります。』との方針が打ち出されましたので、しばらくは何とかなるかもしれません。
けれど、根本的な解決にはならない事と被扶養者認定要件の緩和は時限措置であることに留意してください。
《対策》
◉短時間労働者を増員する
◉扶養を外れて働くことができないか(労働時間の延長が可能か)労使で話し合う
◉設備投資などによる業務効率化・生産性向上で、少ない人数で仕事が回るような仕組みを考える
4. 新たな採用がむずかしくなる
コロナが明けてから特に、「求人の際の賃金を周辺企業より高く設定しないと人が採れない」「今までどおりでは求人に対する反応すらない」というお声が増えました。
時給には地域性・業界・仕事の内容・経験値などによるおおよその世間相場があります。
最低賃金が上がれば当然に世間相場も上がりますので、採用競争力の低下を防いで良い人材を獲得するためには、何かしらの対策が必要になります。
《対策》
◉働きやすい職場環境、適正な労務管理、研修・資格取得支援制度など、賃金以外で他社と差別化を図る
◉設備投資などによる業務効率化・生産性向上で、少ない人数で仕事が回るような仕組みを考える
◆まとめ
最低賃金は労働者の賃金改善だけでなく、企業の経営にも影響を与える課題です。
「物価高を上回る賃上げを実現するため、2030年代半ばまでに最低賃金を1500円に引き上げることを新たな目標にする」と岸田首相が表明していることから、最低賃金はこの先の約10年間で500円、毎年50円近く上がっていくものと思われます。
企業としても手をこまねいているわけにはいきませんので、さまざまな対策を講じることになりますが、未払い賃金を作らないことは最重要ポイントですので、自社の全ての従業員の賃金について、最低賃金を下回っていないかの確認は、毎年必ず行なってください。
厚生労働省の特設サイト『必ずチェック 最低賃金』に制度のポイントやよくある質問など役立つ情報が多数掲載されています。一読をお勧めします。
また、各都道府県にある『働き方改革推進支援センター』は、下記のお悩みを無料で専門家に相談することができる窓口を開設しています。ぜひご活用ください。
- 長時間労働の是正
- 同一労働同一賃金等非正規雇用労働者の待遇改善
- 生産性向上による賃金引上げ
- 人手不足の解消に向けた雇用管理改善
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